僕は人に指導する立場にいるのですが、昔はけっこう叱ることが多かったです。それが相手のためだと思っていたのですが、ある日から、僕よりももっと人を叱る人を見てかなり引いてしまいました。
その日を境に自分が叱っていた姿を想像すると「自分も周りから引かれてたのかな」と考えるようになり、叱ることが嫌になってきました。
でも叱ることを放棄したら、人を育てることなんてできないのではないかとも感じており、どうすればいいのかと自問自答を繰り返す日々でした。
今回紹介するのは、村中直人著【「叱れば人は育つ」は幻想】です。
【「叱れば人は育つ」は幻想】によれば、「叱るという行為は叱る側の欲求を満たしているケースが多く、ほとんどの場合は相手のためになってない」ということです。
叱ることが叱っている本人のためになっているというのはどういうことなのでしょうか。そして、叱るのがダメなら人を指導するときはどうすればいいのでしょうか?
この記事では【「叱れば人は育つ」は幻想】を要約し、気になったところを解説していきます。
叱ることは気持ちいい
まずは「叱る」というもののメカニズムについてです。どうやら人間というのは、「人を罰する」ことで脳の報酬系が活性化し、強い快感を感じてしまうそうです。
これは思い当たる節がある人も多いのではないでしょうか。SNSで他人のミスを過剰に叩く様子を見ない日はありません。人は無意識に「自分が上からものを言える機会はないか」と探っているということです。
また叱るという行為の本質は「相手のネガティブな感情を利用して、相手を思いどおりにコントロールする」という側面もあるといいます。
ようするに叱るという行為は叱る人にとって「気持ちいい」行為なのです。今思えば、僕も昔はそういう自分に酔っていたと感じることがあります。今となっては叱ることが面倒くさくなっているし、叱っている人を見ると「あなたもできてないけどなー」とか思って見ています。
ともかく、叱っている人がいたら「あの人は今、報酬系が活性化しているんだな」という視点で見ると、冷静に物事を判断できるようになるかもしれません。
叱ることに教育効果はない
じゃあ叱ることに効果がないのかというと、そういうわけでもなさそうです。叱るということは「現在進行形の危機的な状況への介入」としては効果があると書かれています。
例えば、子どもが刃物を振り回していたら危ないので叱る必要がありますし、ベランダの手すりを上ろうとしていたら落ちてしまう可能性もあるので、叱らなければならないでしょう。
そのような現在進行形の行動を変える「だけ」の効果はありますが、それが教育的な効果をもつことはないと書かれています。ようするに、叱ったからと言って次にベランダの手すりを上らなくなるかというとそういうわけではないということです。
そこに教育的な効果を求めるのであれば、叱ったあとに「なぜベランダの手すりを上ってはいけないのか」ということを説明したりしなければならず、そのときに大声で怒鳴ったりする必要はないということなのです。
「叱る=教育」という公式は成り立たないということを肝に銘じておくべきでしょう。
前さばきをすることにより叱る機会を減らしていく
【「叱れば人は育つ」は幻想】には「前さばき」と「後さばき」という言葉がたびたび出てきました。
- 後さばき:何かことが起こったあとに対処すること。
- 前さばき:何かことが起こる前に対処しておくこと。
ようするに、何か問題が起こったときにそれを解決するために叱ったりするのは「後さばき」で、そもそも問題を起こさないように事前に対策しておくことを「前さばき」と言います。
著者の村中さんは「前さばき」を推奨しています。そもそも叱らないといけなような状況を作り出さないように対処しておこうということです。
これを最初に読んだときに「それって過保護なんじゃね?」と思いましたが、過保護との違いも明確に説明してくれています。
- 過保護:大人の不安を解消することが目的
- 前さばき:子どもの学びや成長が目的
例えば、小さい子どもがお着替えをするときにボタンを留められずに癇癪を起こすということを知っているから事前に着替えさせてあげる、これは過保護です。
これを前さばきに変換するとどうなるかというと、「手伝おうか?」と事前に聞いてみる、みたいな感じです。これは子どもが自分で決めるという学びや成長を促しますからね。
これを読んだあとに、僕も自分の状況で試してみたのですが、いつもなら叱っている時間に叱ることがなくなってかなり驚きました。そしてその日は一度も叱ることなくすごせました。
慣れるまでは過保護との境界を掴むのが難しいですが、何度も試してみると少しずつわかってくると思います。
まとめ
【「叱れば人は育つ」は幻想】によれば、「叱るという行為は叱る側の欲求を満たしているケースが多く、ほとんどの場合は相手のためになってない」ということです。
本書は4人の方との対談形式になっており、それぞれの現場で「叱る」ということについて書かれているので、とても参考になるお話が多いです。
個人的にはスポーツをやっているので、元女子バレーボール日本代表の大山加奈さんとの対談の賞は参考になるところが多かったです。
「叱る」という行為に少しでも疑問をお持ちであれば、読んで損はないはず。