専門家とそうでない人とのあいだには溝があります。
例えば医者として絶対にこの治療が有効だと患者に説明しても,その患者は受け入れない場合が多々あります。
客観的に見ると「バカな患者だな」と思うかもしれません。
しかし,このバカに見えるような判断は多くの人がしてしまうことであり,なんなら専門家でも不合理な判断をしてしまうこともあるのです。
専門家とそうでない人とのあいだに溝があることは,物事を円滑に進めるための障害になります。
この障害を取り除くにはどうすればいいのでしょうか。
そんな疑問に答えてくれるのが,大竹文雄,平井啓著【医療現場の行動経済学】です。
【医療現場の行動経済学】によれば「人間の意思決定にはバイアス(かたより)があり,必ずしも合理的な意思決定ができるわけではない」とのこと。
そのバイアスを理解し,ていねいに対応していく必要があると書かれています。
この記事では【医療現場の行動経済学】を要約し,気になったところを解説していきます。
すれ違う医者と患者
【医療現場の行動経済学】のサブタイトルは「すれ違う医者と患者」です。
医者からすれば,どうして患者は,合理的な選択をしてくれないのか理解できない。一方,患者からすれば,どうして医者は統計的な数字をあげるばかりで,意思決定を迫ってくるのか理解できない。
(中略)
行動経済学では,人間の意思決定には,合理的な意思決定から系統的に逸脱する傾向,すなわちバイアスが存在すると想定している。そのため,同じ情報であっても,その表現の仕方次第で私たちの意思決定が違ってくることが知られている。医療者がそうした患者の意思決定のバイアスを知っていたならば,患者により合理的な意思決定をうまくさせることができるようになる。
医療関係の仕事についていなくても,このようなことはありますよね。
例えば
- 親と子ども
- 先生と生徒
- コンサルタントとクライアント
みたいな,いわば「売り手と買い手」の関係で,あなたが売り手ならこのような経験はしたことがあるのではないでしょうか。
僕も「売り手」の立場である仕事をしているので【医療現場の行動経済学】の内容は医療従事者でなくても刺さりまくりでした。
ただ医療従事者ではないので,【医療現場の行動経済学】の内容を自分の状況に置き換えて考えなければなりません。
この記事では【医療現場の行動経済学】の内容を以下に「ビジネス」に活用するかを考えていきます。
パック商品を提供する
現在の医療の現場には「インフォームド・コンセント(IC)」というルールがあります。
医療者が患者にすべてを説明し,治療などの同意をもらうというやつです。
問題なのは,最近,その同意書の数がどんどん増えているらしいのです。
細分化することで患者はそのたびに同意をしないといけません。
サインするたびにいちいち意思決定をするというわけです。
細かく同意を得ることで,治療をオーダーメイドするというメリットもあるように思えますが,治療を包括的に捉えることが難しくなっているとも言われています。
この現象は「パック旅行」に似ているなと思いました。
あらかじめ旅行会社が行き先や日程,食事の内容もすべて決めてくれて,まとめて○○円みたいなやつです。
これって楽ですよね。
対して,旅行を1から計画するのはどうでしょうか?
もちろんこれには価値があり,僕はこっちのほうが好きです。
でも世の中の面倒くさがりの人間を相手にしようと思ったらパック旅行を企画してあげたほうが良さそうじゃないですか?
あとはファーストフードの「サブウェイ」にも似てますね。
サブウェイの自分で完全にカスタマイズできますが,面倒くさいですし,初めての人にとってはルールがわかりにくいです。
それならマクドナルドのように「○○バーガー」というパッケージで販売し,あとからピクルスを抜いたりできるほうがわかりやすいです。
医療現場の同意はもしかしたら細かくないとトラブルになるから仕方がない面もあるかもしれません。
ただビジネスはまずは「パック商品を売る」ということを考えたほうがいい気がしました。
他の人はどうしているのかという情報を提供する
自分の商品を購入してもらうような意思決定をお客さんにしてもらうときに,そのお客さんと似た人はどうしているのかという情報を提供すると,買ってもらえる確率が上がるかも知れません。
多くの人は自分の意思決定に自信がありません。
だから「他の人はどうやっているか」という情報を伝えると同調して同じ行動をしようとします。
他人の行動が「参照点(基準)」になるのです。
例えば,有名な人の講演があるとして「40代の男性がたくさん参加してくれています」と書かれていたら,ちょっと気になりますもんね。
僕がこのテクニックを使うとしたら,有名な人のセミナーを主催するときに「真剣な人は過去のセミナーに参加してくれました」みたいなことを書くかなぁ…
ガイドラインをつくる
患者の容体が急変したときに,医療従事者も,患者のご家族も,極限の状態で意思決定をせまられる場合があります。
そんなときに,正しい意思決定が下せるのかと言うと,僕は自信がありません。
間違った選択をしてしまったら一生後悔することになるでしょう。
そのようなミスを防ぐための対策として,あらかじめ「ガイドライン」を作っておけばどうでしょうか。
医療従事者の場合,あらかじめ治療方針の決定プロセスに関する指針を作っておくということです。
もしかしたら「マニュアル」と言い換えたほうがわかりやすいかもしれませんね。
例えば,仕事で何かしらのトラブルがあった場合,「○○のトラブルが起きたらまずは上司に連絡する」みたいなガイドラインがあると,安心です。
極限の状態での意思決定はミスをする可能性が格段にあがるので,極限状態になっていない状態であらかじめガイドラインを作っておくと,ミスを減らせるのではないでしょうか。
まとめ
【#HOOKED】のまとめにこんなことを書きました。
【#HOOKED】を読んで学んだことは「人間はまったく合理的な判断ができないので,とにかくお膳立てをして自分のサービスを見つけてもらう工夫が必要」ということでしょうか。
【医療現場の行動経済学】を読んでも「人間はなんて不合理な行動をするんだろう」とあらためて思い知らされました。
もちろん自分自身も不合理か行動をしているわけで,それを自覚し,気づいたときには対策する必要があります。
そして,人間は不合理な行動をするということを常に頭に入れて行動していく必要があります。
行動経済学の知識を知っているだけで,人生がかなり有利になりますね。